精神病

 十七歳の女学生の精神病を扱った事がある。これは非常に暴れ、ある時は裸体となって乱暴する。その際三人位の男子でなくては制えられないほどの力である。また大いに威張り母親を叱りつける事がある。然るにこの原因は左の如きものである事が判った。即ち娘の父は数年前没し、現在は母親のみであったがその母親は、数ヵ月前或宗派神道の信者となったので、祖霊を祀り替え、仏壇や位牌を処分した。それがため父の死霊が立腹したのが動機となった。ところが父の未だ生きている頃、その家は仙台から東京へ移転したが、元の邸宅を売却し邸内に古くから祀ってあった稲荷(みこし)をそのまま残したので、買主は稲荷(いなり)(ほこら)を処分してしまったため、その狐霊が立腹し、上京した父に憑依し父は精神病となり終に死亡した。このような訳で、父親の霊と稲荷の霊との二つが娘に憑依したためであった。故に発作時父親の霊は母親を叱り、狐霊は常軌を失わせるといったような具合であったが、私の治療によって全快し、その後結婚し、今日は二児の母となり、何等普通人と異らないのである。

 右の如く古くからある稲荷を処分した事によって、精神病になる場合が非常に多いのである。今一つ面白い例をかいてみよう。これは、二十歳の青年で、大分治癒した頃私の家で使用した。何時も庭の仕事などやらしていたが、私の命令に対し狐霊が邪魔するのである。例えばある場所の草を全部刈れと命じ、暫くして行ってみると一部だけが残っている。私は、「何故全部刈らないか。」と訊くと、「先生が〝そこだけ残せ〟と言われました。」と言う。私は、「そんな筈はない。それでは〝一部残せ〟と言った時、私の姿が見えたか。」と訊くと、「見えないで、声だけ聞こえました。」と言うので、私は、「それは狐が私の声色を使うのだから、以後注意せよ。」と言ったが、直に忘れて右のような事が屡々(しばしば)あった。

 

 

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