下座の行 – The Providence of The Light of The East

　下座(げざ)の行という言葉は昔からあるが、これは人間処(しょ)世上(せいじょう)、案外(あんがい)重要事である。然(しか)も信仰者において殊(こと)に然(しか)りである。信仰団体などに、教義を宣伝する先生に、どうも下座の行が足りないように見える事が屢(しば)屢(しば)ある。昔からの諺(ことわざ)に「能(のう)ある鷹(たか)は爪(つめ)隠(かく)」とか「稔(みの)る程(ほど)頭を下げる稲穂(いなほ)かな」などという句があるが、何(いず)れも下座の行を言うたものである。

　威張(いば)りたがる、偉く見せたがる、物(もの)識(しり)ぶりたがる、自慢(じまん)したがるというように、たがる事は却(かえ)って逆効果を来たすものである。少しばかり人から何とか言われるようになると、ブリたがるのは人間の弱点であって、今迄(まで)世間一般の業務(ぎょうむ)に従事(じゅうじ)し、一般人と同様な生活をしていた者や、社会の下積みになっていた者が、急に先生と言われるようになると「俺はそんなに偉く見えるのか」というように、最初は嬉しく有難く思っていたのが、段々日を経るに従い、より偉く見られたいという欲望が、大抵(たいてい)の人は起こるものである。それ迄(まで)良かったが、それからがどうも面白くない。人に不快を与えるようになるが、御本人はなかなか気が付かないものである。

　神様は慢心を非常に嫌うようである。謙譲の徳といい、下座の行という事は実に貴いもので、文化生活に於(おい)て殊(こと)にそうである。多人数集合の場所や、汽車、電車等に乗る場合、人を押し除(の)けたり、良い座席に傲(ごう)然(ぜん)と坐(ざ)したがる行動は、一種の独占心理であって面白くない。

　円滑に気持よい社会を作る事こそ民主的思想の現われであって、この事は昔も今も聊(いささ)かも変りはないのである。