四、陶器

 陶器に就いて書いてみるが、元来(がんらい)陶器も絵画と同様、支那から学んだものであるから、最初の日本陶器は殆んど支那の模倣(もほう)であった。古い処では黄瀬戸(きぜと)(あお)織部(おりべ)青磁(せいじ)染付(そめつけ)有田(ありた)平戸(ひらど)等で、美術的陶器としては彼の柿右衛門が始めたもので、次いで稀世の陶工(とうこう)(にん)(せい)が京都に現われ、更に九谷焼(くたにやき)が生まれ、一方京都では粟田(あわた)清水(きよみず)等の色絵(いろえ)も出来、仁清風が伝わって伊勢の(ばん)()赤絵(あかえ)となり、次いで薩摩焼の錦手(にしきで)等が制作される事になった。

 又室町時代、凡そ四百年前、尾張(おわり)瀬戸(せと)に生まれたのが古瀬戸(こぜと)と言い、古くは千二百年前奈良朝頃から、自然灰を上釉(うわぐすり)とした青磁風の陶器が出来、日本青磁も江戸中期から出来たが、到底支那青磁に()すべくもない。

 柿右衛門は江戸初期の名工で、近世(きんせい)色絵、錦手(にしきで)等の新機軸を出したので、その功績は斯界(しかい)の大恩人であろう。その後元禄(げんろく)時代六代柿右衛門は、渋右衛門の(ゆう)によって優秀な製品を出し、有名となった。

 特に私の好きなのは、肥前の大河内(おおこうち)(やき)で一名鍋島(なべしま)(やき)と言い、享保(きょうほ)年代初めて作られたもので、皿類(さらるい)が多く、その意匠(いしょう)抜群(ばつぐん)なる色絵染付(そめつけ)の技術と相俟(あいま)って、(すい)(ぜん)()(あた)わざるものがある。次に、俗に伊万里焼(いまりやき)という錦手物(にしきでもの)も捨て難い処がある。又、薩摩(さつま)(やき)巧緻(こうち)にして、絢爛(けんらん)たる色絵も可なるものがある。併し以上の三者共、近代のものは、意匠、技術共見るべきものなく、何といっても二百年以前の物に限ると言ってもいい。

 ただ、百五十年前に生まれた(にしき)()風の九谷焼(くたにやき)は見るべきものがある。特に吉田屋の青九(あおく)(たに)や色絵物に優秀なるものがある。

 私は、最後に語るべきものに、彼の(きょう)(やき)の祖である名人(にん)(せい)がある。彼は仁和寺(にんなじ)村の清兵衛(せいべえ)(清右衛門?)が本名で、陶工としては先ず日本に於ける第一人者と言ってもいい。彼の作品に至ってはその多種多様なる形状、模様の、行くとして可ならざるなき作風は、天稟(てんぴん)であろう。然もその高雅、典麗(てんれい)にして、他の陶器を切離している。特に抹茶(まっちゃ)(わん)(つぼ)等には国宝級のものも相当あり、画界に於ける光琳(こうりん)とも言えよう。彼の()なる点は、日本陶器は殆んど支那を(はん)としたに(かか)わらず、彼のみは(いささ)かもそれがなく、日本独特のものを作っている。尤も彼の鍋島(なべしま)(やき)も同様、日本独特のもので、この点二者同様の線に沿うており、支那以上のものも多く出している。又乾山(けんざん)も、稚拙(ちせつ)な点もあるが、趣味横溢(おういつ)したものもある。光琳の弟である為、光琳との合作もある。

 又、備前焼(びぜんやき)にもなかなか良いものがある。主に花生(はないけ)、置物等で、古備前(こびぜん)(あお)備前(びぜん)等、優品が多く、推奨に足るものがある。又(しょん)(ずい)も私の好きなものである。その他京焼物の種類も多いが、名だたるものとしては、初代(もく)(べい)位であろう。

 陶器を語るに当っては、茶器も語らなければなるまい。茶器としては、まず茶碗であろう。特に朝鮮物が最も珍重(ちんちょう)される。最高のものとしては井戸(いど)であろう。井戸のうち()()衛門(えもん)加賀(かが)(ほん)()()等は有名である。これらは今日と雖も価格数百金というのであるから、驚くべきである。次いで、魚屋(ととや)(かき)(へた)粉引(こひき)蕎麦(そば)等は、朝鮮物として珍重されている。純日本物としては古瀬戸、志野(しの)織部(おりべ)唐津(からつ)伊賀(いが)信楽(しがらき)(はぎ)の外、長次郎、のんこう、光悦、仁清であろう。特に長次郎は(らく)の元祖で、利休の(ちょう)を受けた名工で、今日迄十三代続いている。

 次に新しい処を少し書いてみるが、明治以後今日迄、特筆すべき名人は未だ出ないようだ。主なる名工として、初代宮川(みやがわ)香山(こうざん)清水六(しみずろく)兵衛(べえ)板谷波山(いたやはざん)富本(とみもと)憲吉(けんきち)位であろう。

 支那の陶器としては、先ず青磁(せいじ)で、青磁にも(きぬた)天龍寺(てんりゅうじ)七官(しちかん)の三種ある。その他交趾(こうち)万暦(ばんれき)赤絵(あかえ)呉須(ごす)等がある。朝鮮物は(しろ)高麗(こうらい)位であろう。

(自觀随談 六八頁)

 

 

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