社会不安の真因 – The Providence of The Light of The East

　今日、当局の談によれば「犯罪者が殖えて困る、これはどうすればよいか」とよく聞かれるが、これに就いて聊(いささ)か所見(しょけん)を述べてみよう。

　忌(き)憚(たん)なく言えば、現代人は未だ真の人間として完成してはいないのである。というのは、獣的分子が未だ多分にある。いわば半獣半人(はんじゅうはんじん)である。随分酷(ひど)い事を言うと思うであろうが、事実であるから致し方がない。その理由を書いてみるが、読む人は成程と承知(しょうち)するであろう。

　今日、犯罪防止の方法としては、警察、裁判所、監獄(かんごく)等の施設と、それを運営する多数の吏員(りいん)、何百何千の法文(ほうぶん)があって、殆んど犯罪の隙(すき)のない程外形は完備している。丁度人間に危害を加える動物に対し、幾重(いくえ)にも厳重(げんじゅう)な檻(おり)を作って被害を防ぐというのと、何等択(えら)ぶ処はない。人間は古い時代から智慧(ちえ)を絞(しぼ)って、何度檻(おり)を作っても動物共は直(すぐ)に破るので、段々巧妙(こうみょう)に細かく網(あみ)の目を張るようになったのが、現在の防犯状況である。

　見よ、年々法(ほう)規(き)は殖えるが、それは綱の目を細かくする事である。かように扱わなければならないのは、動物人間は檻を破ろうとして爪(つめ)を磨(みが)き牙(きば)を鳴らしている、これが社会不安の因(もと)である。事実外形は人間であっても、内容は獣類(じゅうるい)である。

　もし真の人間でありとすれば、檻など必要としない社会が生れるべきだ。どんな所へ放り出しても決して悪い事はしないという人間こそ、人間としての資格者だ。文化が何程進歩しても、道(どう)義(ぎ)の頽廃(たいはい)が依然たる事実は、檻を破る手段が防ぐ手段に勝(まさ)っているからである。我等(われら)がいつも言う処の、今日の文化は唯物主義のみ発達した跛(は)行(こう)的文化という所以(ゆえん)である。

　以上の意味によって法律もない、防犯施設もない世界こそ人間の世界であって、我等が現在努力しつつある目標こそは、只人間の世界を造るにあると言えよう。

（光　二五号）