1.徳川夢声氏

(昭和二十六年三月二十一日 於 碧雲荘)

 夢声氏 初めまして……。

 明主様 いや、いいですね、あなたの講談などと違った味がある。

 夢声氏 私のは女の方にどうかと思いますが……。

 奥様 いいえ、とてもよく分って……。

 明主様 吉川さんも古い信者でして、あんたと、よく気が合って、実にいいですね。

 夢声氏 これは、原作者との試合のようなものでしてね。原作と演者と互角ならよいですが、原作に及ばなければ負です。

 明主様 あなたの方が優ってますよ、吉川さんも喜ばれるでしょう。

 夢声氏 先日、吉川さんが奥多摩に会館を建てたので是非一度話をしてくれ、実は今迄直接君の解説を聴いたことがないんだ、と言うので、よろしい、それでは行きましょうという事になり、三越の名人会でやった。落語の文楽さん、小唄の二三吉さんが行けないので、小梅さん、漫才では馴染(なじみ)のリーガル千太・万吉さん、それに私という顔ぶれで、吉川さんも非常に喜んでくれまして、武蔵をやる場合は一々ことわらずに勝手(かって)にやってくれという事でした。

 三越の名人会というのは、ちゃんと伝統的な芸をもった、言わば立派な修業をして名人の域に達した人達ばかりなんです。私だけです、インチキ性のあるのは……。

 明主様 そこが、いいんですよ。商売人になったら駄目です。私は皆素人流(しろうとりゅう)でいろんな事をやっているんで、全然(ぜんぜん)専門家と違ってますね。箱根においでになって石の庭を見れば分るんですが、専門家がこれをみると嫌になって職を投げたくなったんだそうです。というのは、そこに使ってある石が裏だったり逆さだったりして、とても普通じゃ使えないと言うんです。それが又、素敵(すてき)にいいんですよ。

 夢声氏 一つ一つ型にはまってないからなんですね。世の中は型が全部ではありませんから……型にはまらないでいいものもありましょう。

 明主様 何んでも型にはまると死んでしまいます。私は書をやっていますが、私がいつか書を習おうと言った時、書家が、あんたは字を習うのを止めなさい。我々は型がついて、どうしてこれを破るかに苦労している。多少字が違っていても、点や棒が多くても足りなくともいい。()(せい)を生かす、それが尊いものだといわれたが、まあ()(くつ)では分らぬ点がありますね。

 夢声氏 例えば、今日文楽さんのやった落語の寝床などは、何遍となく繰返し繰返して切磋琢磨(せっさたくま)されて、完成品にしてありますが、わたしの話は、()(ざつ)な未完成品でしてね。話の根本問題を考えていますが。

 明主様 非常にうまい、結局魂の問題です。つまり武蔵の魂を伝えるんですね。いくらうまくやっても、商売人の講釈師のは形だけで魂がないから、受ける感じがちがう。わたしは武蔵をただの武芸者だとは思ってません。というのは、あの人は絵を画くでしょう。それが実にうまいのですよ。

 夢声氏 ただではありませんね。この間吉川さんが、武蔵(むさし)叭々(はは)(ちょう)の軸を一本くれましたが、あの人も最初は、自分の書いたものを講釈されるのを幾分嫌がっていた傾向(けいこう)があったが、原作を幾分崩されやしないかの憂いをもったんでしょう。近頃では自分の書いたものならどんどんやって欲しいなどと言ったりしています。武蔵の画いた絵なども、僕一人のものでない、君も持つべき品だと言って、わざわざ持って来てくれましたが、流石立派に画けています。品格がありますね。

 明主様 ええ、私もこの間見たが非常にうまいですね。ものは或るレベルに達すると同じことです。

 夢声氏 それも本職がみると、おかしいんだそうですが、本職には画けない絵だという事です。

 明主様  偽物(にせもの)も多いんじゃないですか?

 夢声氏 ええ、多いようです。

 明主様 でも、名画は偽が多いですからねえ。それに本物より偽の方がうまい場合もありますねえ。

 奥様 三越で印刷でうまく出来てましたね。

 夢声氏 墨絵などみても格調が高いですね。

 奥様 印刷してあって、巧芸社版でしたかしら。

 夢声氏 そうですね、あの墨絵などは偽物か本物か分りませんね。先頃も一茶(いっさ)の手紙を買ったんですが、まあ、只ではあるし、どうせ偽物だと思っていた処、一茶ものを扱いなれている骨董屋にみせたら本物だと言うんです。本物を只でくれるはずがないし、よくみたら印刷なんで……この時は昼間みて分ったのですよ。

 明主様 家にも、一茶なら二本あります。確か(うずら)か何かだったと思いますが、秋に箱根でおみせしましょう。

 夢声氏 是非拝見したいものです。

 明主様 武蔵は沢庵からよほど教えられていたようですね?

 夢声氏 えー、時代は同じですがあ――そうですね、書いておかしくはないけど、沢庵と交渉のあった伝説はありません。併し沢庵ならずとも偉くなったと思いますね。

 明主様 確かにただの武芸者でなく、精神的に尊いものをもっていますね。

 夢声氏 えー、今私は週刊朝日で対談をやってますが、第一回は徳川義親氏、二人目が女優の轟夕起子、三人目が長谷川伸、四人目が大野伴睦、五人目が大阪の旭堂南陵、六人目が照葉に会って昨日すまして来ましたが、次が植物学の牧野富太郎さんの番になってます。どうです、一度おやりになりませんか。私の主義として、絶対相手を傷つけるようなことはしないつもりです。私が介在してマイナスになるのでは、申訳ありませんからねえ。

 明主様 え、やりましょう……あんたは曲者(くせもの)型ですよ。

 夢声氏 曲者型は恐れいります。それはそちらさんも……(笑)

 明主様 わたしゃそういう人が好きですね。何もない人は面白くない。何か一クセあると面白い。つまり、バランスのとれた人間ですかね……。

 夢声氏 そのバランスを説教するのですか?(笑)

 明主様 それを説くのは難かしいですね。

 夢声氏 お手伝いしますか。(笑)

 明主様 徳川さんとは関係あるんですか?

 夢声氏 いいえ関係はありません。だから週刊朝日の対談では新案両徳川としているんで。私が偽ものになってしまいます。そう、わたしがニセになったが一度あります。一昨年放送局で隠し芸会をやった時、徳川さんがおはやしの笛を吹くことになって、三味線がないと面白くない、市丸ならいいだろうということになったが、これが隠し芸大会で専門外のことをやらなきゃなんない、夢声の笛なら私の三味線の方がうまいと思ったんでしょう、引受けちゃったんですが、さて当日、放送局で合(会?)ったのが徳川違い……(笑)その時はわたしが偽ものになったんです。

 明主様 夢声というのはどういう意味ですか。

 夢声氏 いいえ、わたしの本名は福原俊雄、先生が清水嶺山だったので福原嶺川という事にして、芝の第二福宝館に月給十円で出ていたが、どうにもならなくなって大阪へ出奔(しゅっぽん)しましてね。日活では大変怒ったが、赤坂の葵館に入ったのですが、そこの支配人から福原嶺川ではますいから一事便宜上偽名しろと言われて皆に相談しまして、まあ、楽屋とか事務所の連中が面白半分に、葵だから徳川とつけたり、声というのは当時多かったので、徳川声とまではいったのですが、夢がなかなか見つからない。一事毒掃丸とつけられようとしましたが、しまいになって夢のような声だから、夢声……徳川夢声はどうだろうということになったので、わたしがつけた名前ではありません。それが反ってよかったんですね。

 明主様 そうですね。わたしのこともお光様なんて言いますが、これはわたしがつけたのでもなんでもないんです。新聞屋がつけたので、確か静岡新聞だったか……。

 夢声氏 その方が通りがいいですよ。

 明主様 又、うまく合ってますよ。

 夢声氏 フランスの印象派(いんしょうは)なども、自分からつけたのではないんですね。(ただ事物をそのまま写すのでなくて、一度頭の中で印象を画いて筆にするのが本当の絵だという主張ですから)猫の印象とか、太陽の印象とか、やたらに何々の印象々々という画題をつけたんですね。それを新聞か何かが印象派と書いたもので、しまいに自分でも、印象派だと思うようになったのですね。

 明主様 それが一番自然でいいですよ。一つは感じだから……。

 夢声氏 わたしは、科学も少し進歩したら、霊というようなことも測定できるのではないかと、思ってますが?

 明主様 それは、出来ます。

 夢声氏 何か、放射能がガイガース氏の放射能測定のように……。

 明主様 つまり、機械で測定出来るようになりますよ。その論文を、今書いてますが、現在の原子科学は中間子理論で行詰っているんだそうです。これも湯川さんが中間子を予想して、たまたま宇宙線の写真の中に発見されて、確証されたんですが、これをもっと突進めると機械では測定できません。ズーッと先へ行くと神に到達します。やがては科学の進歩によって実証されるでしょうが、現在ではこの中間子の極点と神との間が空白になっているんですが、そこまで科学者の頭が行っていないので分らぬのです。わたしはこれを科学的に説明して、理論神霊学と名附けてますが、これを読めば分らないはずはない。実験神霊学としても、こうやると(御手を(かざ)される)直ぐ病気がよくなる、盲腸炎なども実によく治る、これが実験神霊学です。

 夢声氏 そうですね、電気技師が感電死する時など、指からパッと放電しますね。目をつぶって、こうやる(指を眼元に近づける)と感じが分ります。私は腹が痛い時など、手を腹に当てていると暫くするうちに治ることがよくあるんですが、確かに手から大変ないいものが出ています、霊気と言いますからね。

 奥様 手当と言いますからね。

 明主様 これを説くのは中々むずかしい事です。

 夢声氏 どうも、有難う御座いました。

(栄光 九八・九九号)

 

 

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