選挙と言っても種々あるが、茲では先ず代表とも言うべき国会議員の選挙に就いて論じてみよう。今日国会議員に当選するには一落二当と言って、百万円では落選するが、二百万円以上なら当選するというわけで、実に驚くべき話だ。従ってこの選挙費用の莫大である事が原因となって、どうしても闇によって運動費を獲得しなければならないという事になる。周知の如き辻や土建、昭電等々、忌まわしい問題が次々起り、殆んど底知れぬ程であるのもそれが為である。こうなっては、国家の選良も、大政党の幹部も、何々大臣と雖も、国民軽侮の的となる処ではない。国家の体面にも関わり、社会道義に影響する処も蓋し鮮少ではないであろう。然らば、この問題解決に当ってはどうする事が一番良いかという事で、それには先ず第一にその原因を摘出し、爼上にのせてみる事である。
総選挙に当って、運動費の多い程当選率が高い事は周知の事実である。だからして彼等が運動費獲得の為、法に触るるような事にまで立至るのである。忌憚なく言えば運動費獲得の手腕如何によって当落が決まるというわけになるから、大問題である。仮に今度のような事件が起こらないとしたなら、議会は実に不透明極まるものとなろうし、これでは善い政治の行われよう筈がないから、日本再建も国民の幸福も、何時実現するか判らないという事になる。
とはいうものの、国民の側にも罪がある。それを具体的に言えばこうである。先ず選挙の場合、候補者を選ぶに当って何を標準にするかというと、
一、良かれ悪しかれ名前の売れている人。
二、親戚、知友から頼まれ、義理や情実で投票する。
三、以前落選したとか、貧乏であるという事に同情する結果。
四、ポスター、立看板、印刷物等で再三姓名を見、頭に印象されている為。
五、議会で質問をしたり、暴力を揮ったりして、新聞やラジオで名前が売れた人。
六、滑稽なのは、名前が書きよいからという事。
――等々、ザッと右のような事情が、候補者選択の規準となっているのが現実である。
本当から言えば我々の代表者たる国会議員である以上、立法上立派な成績を挙げ得る人でなければならないはずであるに拘わらず、以上のような有様では、善い政治、幸福な社会が生まれる筈がないではないか。この分り切った道理が行われないという事は寧ろ不思議でさえある。従って選挙に当り主点とする処は、候補者の人物選択の規準として、政見そのものにある事は言う迄もない。然るに、以上列挙したような事柄のどれもこれも、政見とは何の関係もないのであるから、全くの浪費であって、その為自他共に苦しむというに至っては、実に馬鹿々々い限りである。併し乍ら、従来選挙法改正の行われた事は屢々あったが、部分的のもので、思い切った抜本的の改正は行われなかったのである。
併し、よく考えてみると無理のない点もある。新聞や雑誌で人格、識見の高い人物を選べとよく言われるが、これ程分らぬ話はない。何となれば、先ず候補者として名乗をあげた顔ぶれを見た処で、一般人としては殆んど未知の名前ばかりと言ってもよい。特に近頃の如き知名人は、大方追放令にかかっている関係上、殆んど新人ばかりと言ってもいい位であるから、尚更判りよう筈がない。それが為、凡そ政見とは関係のない事柄によって投票するの止むを得ない事になる。ここに於て右の欠点を矯正し、立派な選挙を行う方法として、次の如き試案を発表、大方の批判を乞いたいと思うのである。
先ずこの案を発表するにあたっては、多額の運動費を要しないようにする事と、候補者の政見発表を簡易にする事と、この二点であろう。それに就いて、参考の為、運動費なるものの正体を検討してみるが、以前のように買収主義は近来よほど減ったようだが、と言っても物価高の今日、容易なものではない。先ず多数の運動員を使役し、それに要する日当、車馬賃、酒食代は勿論、ポスター、印刷物、立看板、五人か十人しか聴きに来ない演説会、当選御礼等々で、曩に述べた如き、全く政見に関係のない、浪費以外の何ものでもないものが主要条件となっている。
以上述べたように、政見こそ候補者選択の絶対条件であるとすれば、何よりも政見を充分選挙民に徹底させる事である。その方法として先ず、今日の新聞紙大の四ペ－ジ一枚とし、一ページは十七段であるから合計六十八段になる。この二段分を一候補者の政見の記事に宛てるとすれば充分で、三十四候補者の政見を発表出来得ることになる。仮に中選挙区として四、五十万人の有権者へ配布するとして、印刷及び郵便費を加算しても一万円とはかかるまい。それを一回だけ配布すればよいのである。有権者はそれを熟読し、その中から、自己の意に適した候補者を選び、選挙当日投票所に赴き投票する。ただそれだけである。何と簡単ではあるまいか。この簡単なる方法によって、候補者は何等の手数も運動費も要しないばかりか、選挙民に於ても義理や情実に煩わさるることなく、自由に選択し得るのであるから、公正なる選挙の目的は充分達し得らるるわけである。否、多数の運動費を要した今日までの選挙よりも、良好な成果をあげ得らるることは言う迄もない。とすれば、瀆職も疑獄も起りよう筈がないという、実に一挙両得の理想選挙である。但し、かような小額運動費で済むとすれば、猫もシャク子も候補者に出たがるから、これを防止する方法として、供託金を少なくとも五万円ないし十万円位にする必要があろう。
標題の選挙費用金一万円也は、ザッと件の如きものである。
（地上天国 二号）
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