正直と嘘

 正直にする方がいいか嘘をつく方がいいかといえば、正直にする方がいいという事は余りにも明らかである。併し乍ら世の中の事はそう単純ではないから、正直でなければならない場合もあり、嘘をつかねばならない場合もある。この区別の判り得る人が(えら)いとか利巧とかいう訳になるのである。然らば、その判断はどうすればよいかというと、私はこう思うのである。先ず原則としては出来るだけ正直にするという事であるが、併しどうしても正直に出来得ない場合、例えていえば病人に接した時〝あなたは影が簿いから、そう長くはあるまい〟などと思っても、それは反対に嘘をつく方がよいので、否嘘をつかない訳とはゆかないであろう。処が世間には苦労人などと言われる人で、案外嘘をつきたがる人がある。そうしてつくず(づ?)く世の中の事を見ると、嘘で失敗する場合は非常に多いが、正直で失敗するという事は滅多にないものである。

(自觀随談 六頁)

 

 

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